週刊オクシーズ物語
09. ノゾーミの夢

ノゾーミの夢
その日朝からノゾーミは鏡の前で笑顔作りに余念がなかった。
正面からにっこり笑ってみる。オッケ~。
すこしななめ左から。うんまあこんなもんね。右はどうだ?
口角だってもう少しあげなきゃ、あ~んほうれい線が目立つぅ~。
次は歌ってみる。今日も満面の笑みだ!あとはもう少し目力だわ!
もっと目を開け!お前はもっとできるはずだ!
踊ってみる。今日もクルクル、絶好調だわ!よ~し!完璧っ!
さあ、今日は初めての『Hard to say good bye』の練習!気合いれなきゃ!
『Hard to say good bye』(以後HSG)は映画ドリームガールズの中の挿入歌で、
ノゾーミのたっての希望で今回取り入れた曲である。
別れをテーマにした美しいバラードで、3人が手を取り合って歩くシーンが、
オクシーズの3人のこれまで道のりを表現しているようで、
オクシーズ言い出しっぺのノゾーミとしてはどうしてもこの曲だけはセンターでやりたかったのである。
歌は相変わらず下手だけど、でもこの歌だけは頑張るわ!完璧な笑顔でセンターでブリブリ踊らせてもらうわよ!!
実はノゾーミには大きな夢があった。オクシーズを思い立ったときにもしかしたら近づけるかもしれないと思った夢。
それはミュージカルである。ノゾーミは昔から踊るのが大好きだった。中高時代はガールやデビーギブソンの全盛期。
友達と昼休みになれば教室の後ろで踊ったものである。
大人になってからも長続きはしなかったけれどニューヨークでバレエやジャスダンスなどのレッスンを受けていた時代もある。
そして40代になった時、ミュージカルに出会い人生が変わった。
ミュージカルの本場、ブロードウェイで本物を鑑賞するということとは全く別物の、
自分で歌いながら踊るという楽しさを知ったのだ。 そこには仲間と舞台というひとつの目標に向かっていく感動があった。
ブルックリンのはずれにある小さなアマチュアミュージカル劇団であったが、そこで苦しい時代を乗り越えられたのである。
介護施設で痴呆のお年寄りの世話をしている友人が言う。
『歳をとるとね、人はみんな最後には歌うか踊るかなのよ。どんなに立派なお仕事してた人でもみんな同じ。 こうやってTwinkle,Twinkle,Little Star~♪って嬉しそうに手を叩いて踊るのよ。』
ノゾーミは思った。歌うことと踊ることって人間の原点なんだ。ならば歌って踊るミュージカルって最高じゃない!
中高年が参加できるミュージカルがリトル高岡にもあったらいいのに。
オクシーズの延長線上にミュージカルが見えてくるような気がしていた。
さあ、今日の練習キメテやるわよ!
ノゾーミは意気揚々とスタジオに向かった。まさかあんなことになるとは知らずに。